有明海から昇る日の出の風景は、過去に西鉄カレンダーでも数回取り上げられている。潮の満ち引きが激しい有明海は引き潮の時にははるか彼方まで泥の大地が姿を見せ、その向こうから太陽が姿を見せる、確かにこの土地ならではの風景。なので僕もぜひ撮影してみたかった。
撮影を思い立ったその日、潮見表を見てみると、次の日の朝はちょうど干潮を迎えていることが分かり、さっそく佐賀県へと出発。撮影場所は道の駅鹿島か、もしくは道の駅太良町のどちらかかなと。この二つの道の駅は非常に近い距離にあり、しかもどちらも東側に有明海を望む絶好のポイントとなっている。どちらも似たような風景になることは分かっているので、とりあえず朝の気分で決めようかなと(いつも気分次第)。
とはいえ時間があったので下見へ。どんより曇っていてうまく想像できないけれど、これはこれでなかなか見応えある風景なのではないかということで、クラシックネガに設定してモノトーン風に撮影。
GFX50sⅡ 35-70 クラシックネガ
ホテルは鹿島にあるスカイタワーホテルへ。すごい名前だ。このような名前からしてきっと古いホテルだろうなと思っていたらやっぱり古かった。このようなありがちなカタカナの名前や「ニュー」とつくホテルは古いと思っていい。でもフロントの方は丁寧だし、建物は古いけれどしっかりメンテナンスされているようで、思っていた以上にきれいなホテル。そして名前の通り、スカイタワーのように窓からは一面の鹿島市が見渡せる。これはほかに高い建物がまったくないからともいえる。到着は夜だったので夜景が広がっていた。といっても目の前のセブンイレブンが輝き、その向こうに鹿島駅のホームが見えるくらい。その先は闇なのできっと何もない。でもなんとなく見ていると落ち着く光景だなあと思ったり。
夜はグーグルで調べて酒蔵が続く通りにある「浜町食堂」へ。
趣のある通りをゆくと看板が現れる。闇の中にぽっかり浮かぶ建物が見えた。きっと歴史的価値のある建物に違いない。入るとお客は僕一人。中は思ったよりお洒落でカフェのような雰囲気。ちょっと寂しいけれど店員さんの応対もすごくいいので心地よさそうだ。端っこのテーブルに座って「あら炊き定食」を頼んだ。飲み物付きというので、温かいウーロン茶を付けてもらう。
そして「あら炊き定食」がやってきた。おおっ、美味しそうだ。そしてお茶が二つあったのでどうしてだろうと不思議に思っていると、「こちらが暖かいウーロン茶、そしてこちらが元々ついている暖かい麦茶です」とのこと。暖かいお茶が元々ついているなら先に言ってよ!知ってたらオレンジジュースにしてたのに、と心の中で叫んだけれど、まあそんな小さなこと気にしてもしょうがないので「ありがとう」と言って美味しくいただいた。
次の日は夜明け前に出発し、ひとまず道の駅「鹿島」へ。と思ったけれどその先の「太良」へ。こちらのほうが漁船が多いかなあという印象なので(すべて海苔生産者の船かな)、だだっ広い有明の日の出の際にはいいポイントになってくれるかもしれないと思ったのだ。
で、到着してみると、船は北方面にたくさん停泊しているけれど、朝日の出る東方面にはまったくない。これは昨日の下見で分かっていたのだが、何とか船を小さくでも入れてみたいということで歩いて移動。小さな浜に降り立ち、潮の引いた海岸を歩
き、その先に見える防波堤へと向かった。そこからだと東方面に船を入れることができそう。
GFX50sⅡ 35-70 ベルビア
話し声が聞こえてきてエンジンの音が響く。そして広大な有明海へと向かってゆくいい朝の光景。
やがてやや霞んだ東の空から太陽が姿を見せた。霞んでいるせいで対岸が見えないけれど、かえってそれが広大に見える。
X-T4 55-200 ベルビア
2時間ほど撮影しただろうか。
朝ごはんをほとんど食べずに撮影していたため、空腹で足がふらつきそうだった。
鹿島市内に戻り、モーニングをやっている喫茶店を検索してみたけれど、鹿島市にそんなお店はあるはずもなく、困ったときのジョイフルに入った。モーニングのパンケーキセットがあったので早速注文。松浦弥太郎のエッセイを読みながらパンケーキをいただく。朝日も射しこんできてまあ悪くない。
するとエッセイの中に、サンフランシスコのレストランで朝食をいただくシーンの話があった。ちょっと同じような状況だろうかと読み進めてみると、隣のテーブルにカナダ人女性が座っていて、たばこの火を弥太郎さんに借りようと声をかけてくる。そしていろんな話をするようになり、最後はキスをしたなんて話になるのだ。一体どういう状況になればそんなことになるんだ! 僕は思わず周囲を見渡してみたけれど、そのようなカナダ人女性などもちろんいるはずもなく、よく咳払いするおじいさんと、よくトイレに立つおばあさんがいるのみ。うーんこれがシスコと鹿島の違いか。ていうか海外の旅でもそんなことは全くなかったぞ。
まあ弥太郎さんのような状況を期待しているわけではもちろんなく(わずかながらうらやましくはあるけれど…)、僕は今日の撮影を振り返りながら静かにパンケーキをいただいた。いい撮影だったなあなんて一人ほほ笑みながら。 すると近くのおじいさんおばあさんが立ち上がり、お店を出てゆく。二人とも軽トラに乗り込んだ。きっと海苔の生産者だろう。運転席には意外にもおばあさんが乗り込んで、ブーンとけたたましい音を鳴らしながら去っていった。
まあ何てことのないワンシーンだけれど、いい朝食時の光景だったんじゃないかなと。
シスコとカシマ、なんかカタカナにすると似ているような。いや似てないか。
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