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執筆者の写真川上 信也

Vol.5 カフェアリワ

カフェアリワにはもう20年近く通っている。

いつも猫がとなりにいる。



 20年前は通っているというより働いていた。山小屋生活から下界に戻ってきて、「坊がつる山小屋日記」を出版してすぐの頃のはなし。本を出版して写真展を開催したからといってすぐに仕事なんか来るわけもなく、とりあえずカメラを持って(ニコンF90Xだった)小戸公園あたりをウロウロしながら撮影している時に、偶然見つけて入ったお店がカフェアリワだった。

何度か行くうちに店主の女性、なおさんとは同じ年ということが分かり、いろいろと話すようになった。どういういきさつだったか忘れてしまったけれど、カウンターに入って珈琲を淹れるようになったのだ。不思議な縁だなあ。

 週に二日ほど、一年弱くらいカウンターに立っていた。珈琲はネルで淹れていたし、ドリンク類は僕が担当していた(素人なのによくやってたなあほんと)。

そしてこのお店ではいろんな方々に出会った。いつも作業服で来ていた自動車整備の方、カウンターで一本だけ煙草を吸うとてもきれいな女性の方、店主の同級生というミュージシャンの方、ピアニストもいたし、演劇やってる俳優さんもいた。珈琲屋さんもいたし、ケーキ職人もいたなあ。僕はそんな魅力的な方たちといろんなおしゃべりをしながら、働くというより暇な時間をアリワで過ごしていたのだった。将来の不安を絶えず抱えていたものの、みんなと話すうちに人生そんなに難しくも考えなくていいと思えるようになるのだった。みんな楽しそうだったしね。

そのうちアリワでスライド上映会や写真展を開催し、次第に僕が写真をやっているということをお客さんも知るようになった。そしてミュージシャンの方がCDを制作するという時は僕が撮影し、ライブ撮影もさせてもらった。何だか楽しいカフェ時代だったなあ。そのうち僕はとある広報誌のレギュラーの仕事を任されることとなり、カフェアリワでの仕事は自然と終了していった。お世話になったなあほんと。

 

そしてあれからおよそ20年後の今日も、アリワに行ってきた。

珈琲を頼むとやきいもが添えられていた。



 当時はカブという猫がいてよく撮影させてもらっていたけれど数年前に亡くなり、そのあとカブとよく似た猫がやってきた。なおさんはカブの生まれ変わりと信じていて「コカブ」と呼んでいる。他にもえーと何匹だったか、4匹いるのかな。横を見ても上を見ても猫がいる不思議なお店。




 そして僕が働いている時にはまだ生まれていなかったなおさんの一人娘、「あずき」は中学生になっている。赤ちゃんの頃も七五三の時も撮影させてもらった。そういえばなおさん達の結婚式での集合写真も僕が撮影したんだった。会場まで僕の車サンバーでお二人を送ったけれど、いつも車中泊しているような車に晴れ姿の二人を乗せていいものかとずいぶん気を使って運転したのだった。

 あずきはこの頃いっそうあいみょんに似てきた。しかもミュージシャンを目指しているという。



 こういう場所はパワースポットといえるのかもしれない。常連の方もそんな話をしていた。確かにそうかもしれないなあ。男は町になじみのバーを2軒はもっているものと言われるけれど、僕はお酒をほとんど飲まないので、アリワのようなお店の存在を大事にしている。ここではビーチボーイズの「ペットサウンズ」をはじめ、多くの音楽を教えてもらったことも、僕の人生での大きなパワーになっている。集まってくる猫たちも何だかそんな力に引き寄せられているようにも思える。

 帰り際に西鉄カレンダーを差し上げた。

とても喜んでくれた。あずきは「大宰府って雪がふるのー」という感想。

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