大晦日の夜から次の日の天気予報を何度も見ていた。
日の出の撮影に行かなければならない。カレンダーの1月は必ず日の出の写真となるため、12月からは日の出を追いかけている。これまで熊本、大分、鹿児島と日の出を求めて巡ってきた。そして大晦日を迎えたのだった。
もちろん初日の出という特別な日になるのだろうけれど、無理して人の多い元日にいかなくてもいいのではと、何度もやめておこうと思った。ほんとに何度も何度も。もしかすると人ごみに囲まれて撮影できない場合だってあるしなあと、いろんな行かない理由を考えていたのだが(こんなんでいいのかな)、そんな中でちょっと気になっていたのが皿倉山。普段はケーブルカーの始発が10時くらいなのだが、元日のみ早朝5時から運行するという。もちろんみんな初日の出が目的。要するに元日以外は日の出を撮影しようと思ったら結構な登山をしなければならない。これは元日にこそ行く価値があるかもと思ったのだ。
ただものすごい人だという。紅葉の時もすごかったけれど、初日の出となるともっとだろうきっと。まず駐車場がすぐいっぱいになるというので、八幡駅前あたりに臨時駐車場があってそこからバスで移動してもらうという。これは面倒だな。
ということで、夜から出発して駐車場まで向かい、そこで新年を迎えることにした。
いまだかつてこんな新年を迎えたことがあったろうか。ないなあ。法華院の山小屋時代に客室廊下のストーブに灯油を給油していたら2000年を迎えたことがあった。新たなる新世紀を灯油入れながら迎えていいのかとちょっと頭をかかえたけれど、まあ仕事だからね。今回も仕事であるし、灯油入れながら迎えるよりは楽しいかもしれない。
12時少し前に駐車場に到着したけれど、すでに警備員が配置されていた。仕事しておられるんだなあご苦労様です。そして駐車場にはすでに何台か停まっていた。みんな早すぎるんでないかいまったく。いや僕もか。
結構明るい電気が灯っているので端っこのちょっと暗いところに車を停めた。外の気温は0度近くなっていたので、寝袋に毛布を掛けて寝る体制に。するとどこからともなく除夜の鐘の音が響いてきた。しばらく耳を澄ませながら今年の出来事をしんみりと振り返ってみる。なかなかいい大晦日じゃないかこれはこれで。先日買った松浦弥太郎のエッセイを読みながらいつの間にか寝てしまった。
4時半に起きると、すでに外が騒がしい。もしかしてこれでも起きるのが遅かったのかと焦りながら準備して外に出てみると、すでにケーブルカーの前には行列ができていた。みんな早すぎるんでないかいまったく。まあ僕もか。
とりあえず並んで待つ。前は家族連れ、後ろは高校生のグループだ。家族たちは初もうでの話などなど、高校生たちは好きな女の子の話をずっとしている。新年から楽しそうだなあまったく。僕は新年になって警備員にここが一番後ろですかと話したのみ。まあ一人だからしょうがいけれど、多くの団体の中での一人時間も結構楽しく思えるようになってきた。
ケーブルカーからは朝の夜景が見える。いつもは夕暮れの夜景だろうからこれも元日ならではの光景なんだろう。
頂上は着いたのは6時すぎ。日の出までまだ一時間以上もある。気温はマイナスの中で待つことになる。僕はとりあえず冬山装備で来ているので大丈夫だけれど、みんな耐えられるのかなあ。展望台が室内になっているらしく、多くの方がそこに避難するように入っていった。僕は撮影場所を探すためウロウロ。ここは紅葉の時に来て周囲を歩いていたけれど、多くの鉄塔があって撮影するにはものすごく邪魔になってしまう。このことは分かっていたけれど、まあ行けば何とかなると思っていたのだ(ほんと運任せ人生)。
しばらく歩き回り、ほんとどこも鉄塔が入ってしまうじゃないかと半ば撮影をあきらめていたのだが、南側のちょっと下ったはずれに古い展望台があるのを思い出した。暗く寂しいイメージだったのでどうかと思ったけれど、とりあえず行ってみた。やっぱり誰もいない。僕が一番乗りだ。というか果たしてここに人が来るのだろうかといった場所。
そしてここからの風景、おそらくここが一番いいのではないだろうか。遠くに街並みが見え、そのさらに向こうに海が見えている。その海に大きな橋があるから北九州空港だ。正面には黒くどっしりした山が聳えている。この山の頂の左あたりから朝日がのぼってくるはず(アプリで調べたのだ)。
そしてしばらく風景を眺めてみる。身も心もこの風景に委ねるように深呼吸して、空気を胸いっぱいに取り込んでみる。心地いい朝!しかも新年だ。
街の灯りが瞬いている。みんなどんな新年を迎えているのだろう。空には美しい藍色グラデーションが広がり、雲の合間から三日月が見えた。なんて美しい光景だろう。この光景と新年を迎えることができただけでも、僕にとっては最高のお正月だなと思った。
日の出の時間が近づくと、数人の方が展望台にやってきた。「上よりここからのほうがいいなあ」とみんな口々に言っている。やっぱりそうなんだ。
やがて山の向こうから朝日が見えてきた。頂上付近から歓声があがる。僕は夢中でシャッターを切る。すぐに雲に隠れてしまったけれど、5分後くらいに再び明るい太陽が姿を見せた。
一時間ほど撮影しただろうか。
いい撮影ができたなあと心を弾ませながら、帰りは歩いて山を降りた。いい撮影ができた時は足取りが軽い。スキップしたい気持ちだったけれど、危ない人と思われそうなので我慢した。
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