豊後竹田に到着したのは夜7時を過ぎていた。白壁の建物が多い駅前のメインストリートには淡くぼんやりした白い街灯が灯りはじめ、それらがシャッターにも反射して不思議な青白い世界を作り出している。まるでユトリロの白の時代の色合いのようだ。
駅から徒歩2分ほどのところにある宿、「CUE」に予約を入れていた。京都にあるような古民家をリノベーションした宿で、木枠の大きな窓から漏れてくる橙色の灯りが目印だ。通りの白と対照的で一層目をひく。一階にはパン屋があり、夜はそこがバーになる。旅人が集まりそうな雰囲気が漂っている。アジアの安宿街をふと思い出したけれど、あのような喧噪の中にあるわけではなく、それがこの街の品格を表しているようだ。暗闇に浮かぶ優しい灯り。
チェックインの時に宿の方がとても詳しくこの町の魅力を教えてくれる。夜の竹田も想像以上に魅力的らしい。この町を愛する情熱が伝わってくる。そしてドミトリーの部屋を案内され、大きな木枠で囲まれた二段ベッドの上段に荷物を置き、夕食へ。
徒歩5分ほどのところにある「リカド」へ向かう。ここはイタリアンのお店で、数年前に店主のクワシマさんを取材させていただいたことがある。様々な場所で修行されてUターンしてきた男性で、年は僕よりいくつか下みたいだけれど、この竹田を盛り上げる中心的な方でもある。
店内はかなり混みあっていた。カウンターに座り、焼酎を飲みながら一息。
最初に出てきた野菜の盛り合わせ。これはもはや芸術品だ。そして出てくる出てくる料理、どれも最高においしい。
店主は取材のときのこともよく覚えていただいていて、あの誌面の反響はものすごかったとのことだった。僕にとってもとても印象に残る撮影で、とてもかっこいい誌面になったのを記憶している。
最後に食べたマルゲリータも最高だ。福岡のどの店よりも美味しいと思う。本当に。
宿に戻り、こちらのバーでもしばらく宿の方々と話は続く。ご夫婦とも移住してきたそうで、この町にすっかり馴染み、そしてこの町の引力に引き付けられているようだ。いずれこの場所で写真のイベントでもできたらなあなどと考えながら消灯の時間がせまってくる。僕は静かに古いレジスターのある談話室で本をめくりながらこの日の夜の余韻に浸っていた。九州の小さな城下町で出会った魅力的な人々。僕も竹田市とこれから深く付き合ってゆくことになるのかもしれない。それはとても素晴らしいことかもしれない。そう思えるいい夜だった。