top of page
執筆者の写真川上 信也

セミの羽化

 昨日のこと、夕暮れ時の庭、濡れ縁で涼んでいると、足元からノソノソと虫が姿を現した。一瞬大型のカナブンかカブトムシのメスかと思ったけれど、よく見ると両手に土をかく熊手のようなものが見える。セミの幼虫だ。空蝉は庭にいくつもあるので見慣れているけれど、生きている幼虫の姿は初めて見た。

考えてみれば7年も土の中にいて、地上にこの姿で出てくるのは羽化までのほんの数時間、しかも暗い時間帯なのでこの姿を見ること自体が貴重なのではと思う。

 


 幼虫は一直線にどこかに向かっている。曲がることも迷ううこともない。するとベランダの鉄柱を登り始めたのだった。どうしてここに登るところがあるのを知っているんだろう。7年間、ここを登ることを目標にしていたとでもいうのだろうか。不思議。


 しばらく観察。

ライトがまぶしいかもしれないと思い撮影を躊躇したけれど、昆虫はLEDライトの光は見えないということなので、モンベルのLEDヘッドライトで照らすことにした。この頃の街灯に虫が集まらないのは蛍光灯からLEDライトになったからだという。虫たちは蛍光灯の光を太陽と勘違いして集まってくるらしい。なので今の時代、虫たちは街灯の灯りも見えず、本来の夜の闇に近い状態で生きているということになるらしい。もっともまだ少なからず電球や蛍光灯はあるので、それなりに明るく見えてはいるんだろうけれど。

 やがて体は膨らみ始めた。

 


そして成虫が姿を現す。



そして逆さまになっていく。



僕は逆さまになるなんて知らなかったので、これは失敗なのではとヒヤヒヤしていた。スマホで早速調べてみると、みんな体を反らしながら出てくるのだという。ここで落ちてしまう幼虫も中にはいるらしいので緊張の時間帯となる。

しかしエイヤっと体を元に戻し、自分が出てきた殻につかまって羽を乾かしてゆく。


 

 美しい羽が輝いている。クマゼミだろうけれど、成虫からは想像もできないほどきれいな色の羽。

僕は小学校4年のころ、夏の夜に近所の友達とカブトムシ捕りに出かけたことがある。森の中では様々な昆虫が姿を現し、木の蜜には図鑑で見たようにカブトムシやカナブンなどが集まっていた。そして周りの木々を見渡すと、そこではアブラゼミの羽化が始まっていたのだ。アブラゼミの成虫は茶色の羽をしているけれど、羽化の時は美しい水色。図鑑で知ってはいたけれど、やはり実物を見れたことに感激したのを覚えている。

 なので今回、セミの羽化を見るのはおよそ40年ぶりとなる。幼虫から見るのはもちろん初めて。

 

 しばらくすると羽が大きくなり、透き通った水色がいっそう美しく見えてくる。光の角度によっては虹色に輝いている。クマゼミがこんな美しいなんて。

ヘッドライトを手に持ち、角度を調整してみる。最も美しいと思われるところでフレーミング。記録写真ではなく作品といえるようなものも撮影できないかと思ったのだ。

周囲の浮かび上がる幾何学的模様、ベランダのさびた茶色、そしてほんの少しの緑がアクセント、この平面的な雰囲気はマティスの絵みたいだなあと勝手に思いながら数枚撮影。




幼虫を発見したのが夜の8時、そしてこの状態になったのが11時過ぎなので、3時間ちょっとのドラマ。

しばらくすると成虫はさらに高くまでよじ登っていった。朝には姿は見えず、無事に飛び立っていったようだ。

庭では今日もワシワシワシとクマゼミの鳴き声が響いている。その中にきっとこのセミもいるんだろう。



閲覧数:322回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comentarios


bottom of page