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川上 信也

撮影の日々


 ここ数日、様々な場所での取材撮影が続いていた。

大分では先週の「うみたまご」、長崎では美術館と原爆資料館、そして今週は福岡でお茶専門店の撮影と、大分宇佐市での焼酎屋さんの撮影。

 福岡での取材はけやき通り近くのお店だったので、舞鶴公園に車を置いてしばらくけやき通りを歩いてお店へと向かった。けやきの緑が気持ちいい。道路に映し出された木々、葉が織りなす影が美しく、こうなると道路の色合い、速度表示のペイント、通り過ぎるバスの音までもがアートのように思えてくる。

お店で初めてお会いするライターさんと待ち合わせ、しばらくお店を取材。掲載する雑誌のコーナーも初めてであるし、担当の東京の編集者の方も初めての方なのでいろいろと力が入ってくる。汗をかきながら撮影していたけれど、新鮮な気持ちになった。

 夜、フーっと息をつきながら自宅の濡れ縁に腰かけ、しばらく星を眺めていた。月がけっこう明るいにもかかわらず結構星座が見えている。正面にはさそり座だ。アンタレスの赤い姿が庭のニッキの木の向こうに輝いていた。ひときわ明るいのは木星のようだ。こうやって蚊取り線香の香り漂う庭でしばらく星を眺めるのが僕の一日のリセット方法となる。雨や曇りならどうするんだということになるけれど、なので僕はリセットがとても苦手なんだろうと思う。多くの人のようにお酒でリセットできればいいんだけど、僕はたしなむ程度しか飲めないので、一日の終わりに星を眺めるという時間が一番落ち着く。

次の日から大分宇佐の四ツ谷酒造さんでの撮影が始まった。ルスカの3人で宇佐へと向かう。

こちらの100周年記念誌の制作を担当しているのだ。僕はこの日からの合流になる。

四ツ谷酒造さんは海に近い宇佐の市街地からちょっと離れた場所にある。狭い路地が入り組んでいる不思議な集落の中にあり、幹線道路が通る前はかならず迷うという集落だったらしい。今でもその路地裏は残っている。四ツ谷酒造さん横の路地も昔から変わらないとのこと。

 四ツ谷酒造さんを一気に押し上げたのが5代目の方で、この焼酎が雑誌や新聞、漫画などで知らないうちに紹介されて大忙しになったのだという。ソムリエが麦チョコのような味わいのと表現した「兼八」。

夜、大分では初めてお会いするアートディレクターの方たちと食事。僕は運転手なのでカボスソーダで乾杯。

ものすごく面白い方たちで、社長さんはレコードコレクターでもあり、事務所にはレコードがたくさん置かれているという。ビートルズ、ビーチボーイズ、吉田拓郎と僕好みの音楽の話がどんどん飛び出し、今度事務所を訪れるのがとても楽しみになってきたのだった。

ここ数日、新しい出会いがたくさん訪れ、新たなる世界が広がりつつある。

夜10時過ぎ、大分を出発し、福岡へ。

別府あたりから深い霧に覆われ、高速道路は50㌔規制。だいたい50㌔規制でもみなさん70㌔くらいで走っているものだが、この霧では50㌔でも危ないくらいに見えない。左側に緑のランプが灯り、それが霧の際の誘導灯になっている。それを頼りに由布院辺りまでノロノロと。福岡に到着したのは夜1時前。長い一日だったけれど、とても楽しい一日が終わったことへの寂しさのようなものがちょっと心をズキズキさせていた。


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