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  • 川上 信也

今この人を撮りたい! Vol.11


後藤 鮎美 (ゴトウ アユミ)  書家

 棚にはいくつかの硯が並べられている。硯というものをじっくり眺めるのはもしかすると生まれて初めてかもしれない。

「手で触ってみるとそれぞれ感触が違います。たとえばこの硯はスベスベ」

と鮎美さんが最も気に入っているという硯を触ってみると、確かにスベスベだ。この滑らかさが墨の粒子を細かくして、より柔らかな表情を文字に与えるのだという。

鮎美さんの文字は展示会で何度か見てきているけれど、あの多彩な表現は筆、墨だけでなく硯も関係していることを初めて知った。硯で黒い波のようにすられる墨を思い浮かべながら作品を眺めると、文字から奏でられる音譜がみえてくるようだ。

 ここ数年は若い書家の活躍も見かけるようになってきたけれど、やはりどうしても書家と聞けば一般的に年配の男性というイメージが強く、派閥なるものが多くてちょっと面倒な世界という固定概念があるかもしれない(写真の世界も似たようなところが…)。そんな書の世界において鮎美さんは派閥に属することなく、いわばフリーの書家として活躍している。

小学校1年の頃から書道をはじめ、書道部の強豪といわれる高校で腕を磨き、大学でも書道科を専攻。その大学で出合った先生との出会いが今の鮎美さんを導くことになる。その先生は賞を取ることが目的のようになっていた派閥には所属せず、自由に芸術として書を表現していたのだ。もちろん派閥に属することによるメリットはあるのだろうけれど、そういったものに縛られず、自由なフィールドから溢れるような感情によって生み出される表現の方が何よりも価値がある。これは同じくフリーの立場である僕にもわかる。つかんではすり抜けてゆく奥の深い世界だからこそ、その感情は大切なもの。

その先生との出会いから鮎美さんの今までの書道観も大きく変わり、黒い輝きから発せられる文字の表現はよりのびやかにしなやかに、時に力強さを増してゆく。

 それまで書に関わりのある人たちに囲まれて過ごしてきた鮎美さんだが、卒業後、様々な人々に接しながら分かってきたことは、書、の世界は一般的に難しい、分かりにくい、と思われている現実。これが教室を始めるきかっけとなる。

「最初は白と黒の美しさを眺めるように…」

難しく考えずまずはそれでいい。

そしてこういう書もあるんだという発見。

そこから伝わってくる手書きの温かみ。

そんな書の魅力を様々な年代の人々に伝えている。

さて、今回は猫たちにも書の魅力を分かってもらおうということで(もちろん僕のわがままですスミマセン…)、たくさんの猫たちが待つ小戸のカフェアリワへ。

果たして猫たちに書の魅力は伝わっただろうか。

 猫たちに邪魔されながらも書かれた伸びやかなる 猫 

跳びはねるような軽やかさ、いたずら心、かわいさを見事にこの一文字で表現!

こんなユーモア心と華やかさを持ち合わせた書家、鮎美さんをこれからも心から応援していきたいと思う。

後藤 鮎美 (ゴトウ アユミ)

書家

福岡教育大書道科卒、

大学院書道科修了

ペン字、書道教室 (天神 西新 高宮)

1day レッスン美文字開催

各地で個展を開催し、作品制作、作品販売も行っている。

福岡市在住

詳しくはこちらを


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