クリハラ ナミ 美術家
台風が過ぎ、遠くにそびえる香春岳がはっきり見えている。やや柔らかくなった大気の中に筑豊らしいともいえる削られた山肌が見え隠れし、麓の工場からトラックが次々に出入りしている。そしてさらに道を進み、ややのどかな田園風景になったところに旧猪位小学校が見えてきた。かつては子供たちの声が一日中響いていたであろう校庭に車を止め、イベントの入り口へとむかう。
リノベーションされ、「いいかね Palette」として蘇った小学校校舎。2階建の校舎には古さを感じさせない空間が広がり、廊下の美しい木目、階段の鮮やかな色合いが目を引く。この日から「おっぱい」をテーマにした現代アート展覧会が開催され、様々なアーティストが教室や廊下、さらにはトイレまでも利用してアート空間が生み出されていた。
「おっぱい展 Charity Art Exhibition OPPAI、2018」 2018.10.1~8
いいかねPallette 福岡県田川市猪国2559 10~18時
ここでの収益は乳がんの啓蒙活動へと使われるチャリティーイベントとなっている。
実行委員長である美術家クリハラ ナミさんは、さっそく様々な取材を受けながら話し続けていた。沈黙がありえないほど受け答えにイキイキとした目で話し続けている。
「20代の頃は子育てにとにかく一生懸命で、30代はアートの勘を取り戻すために3倍速で生きている感じです。」
かつて植木好正さんの個展会場でお会いした時にそんな話をしていたのを思い出した。
そして彼女の展示室へと向かう。入り口には「NUDE 2018」という題。
「女性の心に一番近いブラジャーには、きっとたくさんの想いが宿っている。」
彼女はおっぱいに纏わるエトセトラを世の中に伝えるためのイベントを企画し、全国から集められたブラジャーにその想いをこめ、インスタレーション(空間演出)してゆくアーティスト。
彼女の想いに賛同した様々なアーティストが集まり、筑豊の地でアートを通じてつながってゆく。
子どもの頃からアートに目覚め、大分県立芸術文化短期大学では工芸デザイン科で陶芸を学び、つい最近までは陶芸家として活動していた。
「モノをつくりたいのではなく、表現したい!」
彼女は表現の幅を広げようと陶芸をきっぱりとやめ(とてもいさぎよい!)、新たなるステージで斬新なるアートの表現に取り組みはじめた。
新しいアートとしての表現、彼女が思い付いたありのままの感情、
それがOPPAI、
母が子へ与える母乳「おっぱい」 生命 生きること。
エロスや心としての「おっぱい」 女性の象徴 ありのままの自分
女性の病気への不安「おっぱい」 乳がんの啓蒙
母だからできないではだめ。
彼女はとにかく動き、自身でフリーペーパーを制作したり、様々なイベントを企画したり、そうすることで新たなる仕事を生み出している。
フツーの日常から当たり前ではない世界をいわば取り戻した彼女。
これから会場からの生放送が始まるようで、テレビスタッフが慌ただしく動き回っている。そんな中でもやはり彼女の声が校舎中に響いていた。
中庭に出ると台風一過の澄んだ青空が広がっている。
夢はこの筑豊の空の下で生まれた「OPPAI、」のニューヨーク上陸!
NYの前に「おっぱい展」巡回展のお知らせ
田川市美術館 2018.11.20~25
福岡県田川市新町11-56 入場料200円