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川上 信也

いまこの人を撮りたい! Vol.4


植木 好正   画家

植木さんの絵みたいだなあ。

先日「ひろしま美術館」でアンリ・ルソーの絵を見てそう思ったのだった。二人の絵はまったく違っているようで、どこか同じ空気感を持っている。なので今回植木さんの口から、

「僕ね、アンリ・ルソーが大好きなんですよ。へったくそでしょルソーって。僕の絵もねー。」というセリフが出てきたときはちょっと驚いた。僕はもちろんルソーも植木さんもへたくそなんて思わないし、それどころかどちらも超個性的ですばらしい絵だと見るたびに感動する。両者とも人々や植物の描写にただならぬ力を感じ、その独特なタッチ、立体的感覚は視覚に迷いを生じさせ、それが不思議な味わい、心地よさとなって心に染みわたってくる。もっとも植木さんの場合は人柄にもただならぬ力と味わいが漂っているけれど。

筑豊の田川市後藤寺商店街にチンドン屋が出没して人々を楽しませているという情報を得た。そしてその中の一人が植木さんだった。商店街のイベント「空き店舗マルシェ」で似顔絵を描き、時々チンドン屋に扮して商店街を歩いているという。相変わらず突き抜けた画家だ。この突き抜けた感じをぜひ撮影してみたい。

駅前の会場に到着すると「おー、写真家さんだー」と丸メガネの優しい笑顔が見えた。今でも現役の高校美術教師(教師生活40年以上!)。こんな楽しい先生に教えてもらえるなんて生徒たちは幸せだ。

僕と植木さんとの出会いは2011年にさかのぼる。

僕が今まで出版してきた本のすべてを編集していただいている花乱社の別府大悟氏から、絵の複写撮影の依頼を受けたのだった。長年の付き合いである画家、植木好正さんの画集を制作するとのこと。ものすごく大きな絵もあるからどこでどうやって撮影したらいいのか分からないなあなどと話しているうちに当日を迎え、田川市にある植木さんのアトリエ「アトリエとど」に向かったのだった。別府氏いわく、植木さんはものすごく面白い方だし、行けばまあ何とかなるだろうとのこと(すごい理由です)。

 初めてお会いした植木さんはずば抜けて(突き抜けて)面白い方だった。丸メガネで気さくに話しかけてくる笑顔は僕の緊張なんて瞬時に吹き飛ばし、仲良しの奥さんナオエさんとの会話も愛嬌愛情たっぷりで、確かにこの方の絵の撮影なら何とかなると思ったのだった。

 大型キャンバス100号、150号、200号に描かれた不思議な油絵の数々。とりあえずアトリエから外に運び出し、玄関前の道路沿いにズラリと並べてみた。そして僕は自然とカメラをセットし次々と撮影をはじめたのだった。自然光の中で絵はいっそう活き活きと輝いて見える。海はないはずの筑豊になにやら波打ち際のような心地よさが広がってゆく。通りすがりの車はみんなスピードをゆるめて絵を眺めている。壮大なる青空美術館。画集に掲載されている絵には、まさに筑豊の光、風も映っているはず。

 しばらく撮影を続けていると、植木さんの世界観がしっかりと描かれていることに気が付きはじめる。その時はそれをどう表現したらいいのか分からなかったけれど、後日、この画集が完成したときに別府氏が添えた帯に綴られた言葉、そして本のタイトルが植木さんの世界観を見事に表現していた。

 「大真面目だからこそ、どこか可笑しく、愛情たっぷりだからこそ、どこか毒がある」

画集のタイトルは「人間が好き」。まさに植木さんの人間性そのものだ。

この画集出版当時の2011年、植木さんは1万人の似顔絵を描くことを目標に掲げていて、確か5千人を超えたくらいだったと思う。様々な場所で様々な方々の似顔絵を描いていた。

きっかけは1998年、とあるフランスの町の小さな公園でのこと。のどが渇いて売店へ行ったけど気の強そうな女性店員に言葉が通じず、とりあえずスケッチブックを取り出し似顔絵を描いてあげたという。すると彼女はとたんに笑顔になりコーラ2本にリンゴをもらったそうだ。この出来事がきっかけでアートは世界に通じると実感し、似顔絵を描き続けるという目標が生まれたのだという。ちなみにフランスへは生命保険満期で入ってきたお金での旅行。

リンゴっていうのが植木さんのエピソードらしい。

画集を出版してからの植木さんはさらに行動的となり、外国へと旅立つことが多くなる。生命保険満期というわけではなく、いろんな友人知人たちのつながりから生まれた旅ばかりだ。中でもドイツへは3度旅立ち、これは生まれ故郷の田川とドイツのエッセンが炭鉱で発展したという共通の歴史を持っていることから話が進んだそうで、エッセン市内のショッピングモールで似顔絵を描くイベントまで開催している。

そして2017年、ついに似顔絵1万人達成。

20年ほどの歳月をかけての達成。植木さんの前に1万人が座り、およそ10分ほどの間に様々な年代の方々を描いてきたのだ。若い人の恋愛話からおじいちゃんのビルマでのインパール作戦まで、垣間見える人生は多種多様。植木さん自身もかなり数奇な人生を送っておられる方で、子連れ同士の再婚でいきなり8人の子の父親になったりと。「一度だけじゃないかも結婚は」という詩が画集に掲載されていて、これはとある作曲家が作曲して植木さんご自身が歌っている。これは詩の世界の傑作だ。

ちなみに似顔絵代は無料。お金がからむと深刻になってしまうからとのこと。時々お米が送られてきたり、忘れた頃に感謝のはがきが届いたりする。

「道楽だからねこれは。ハハハッ!」

ちなみにお金はとらないけれど、最後にみなさんの写真を撮っている。

そして突如としてアフリカ、ザンビアへの旅。

これも日本ザンビア友好協会の方が友達で、ザンビア駐日大使が田川市出身で母親と知り合ったことなどが重なり実現していったのだ。不思議な人は不思議な縁を呼ぶものだ。ザンビア滞在中も大使館の方々、ホテルの清掃員、スタッフ、宿泊中の楽団の方々などなど50人ほどの似顔絵を描き、ここで1万1千人を達成。なお外国では似顔絵は2枚描いて1枚はプレゼント。

夕暮れの後藤寺商店街。

もうこのへんでいっかというような様式で建てられた商店街の空き店舗スペースで、次々と似顔絵を描いてゆく植木さん。その背後にひときわ鮮やかな色で描かれたザンビアの方々の絵がかけられている。しっかりと画家を見つめ、壮大な大地を想起させる美しい目が光る。

 そんな外国の絵に囲まれながらも植木さんはあくまで地方が大事と語る。

地方のイベントには積極的に参加し、「地方から見る視点がもっとも大切なんよね」とうれしそうに語りながらチンドン屋に扮して仲間たちのところへ向かう。人々だけでなく故郷、地方にも愛情いっぱいだ。

今後の目標は3万人達成。

「このペースだと達成は105歳くらいかなー。もうちょっと急がんとね。

ドキドキすることせんと!。人生は短いから。」

偉大なる地方の画家の夢は続く。

植木好正  1950年 田川市生まれ

       画家 福智高校教師

      1998年より1万人の似顔絵に取り組み、2017年達成。

      3万人を目指す。

      2011年 画集「人間が好き」出版(花乱社)2500円+税

イベント情報  植木好正作品展 

        「植木さんは何しにザンビアへ?」

        2018年4月6日~15日 嘉麻市立織田廣喜美術館


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