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  • 川上 信也

今この人を撮りたい!Vol.13


山本 育也   Ikuya Yamamoto 家具デザイナー

3月下旬、久住高原にもようやく春の陽ざしが降りそそぎ、白丹周辺ではしだれ桜が満開となっていた。山の麓では冬木の中でコブシの白い花がランプのように輝いている。

久住高原にあるcafé & gallery「みずしの森」周辺の木々は、冬のとげとげしさを和らげるように新芽が顔をのぞかせている。もうすぐここは萌える新緑に覆われ、道路から建物は見えなくなってくる。

 昨年の秋以来の「みずしの森」の玄関を開けると、暖炉に火がついていた。春といえどもまだまだ大気は冷たい。オーナーの秋月さんにかなり遅い新年のあいさつをし、いつものテーブルに向かった。

 Galleryでは「山本育也の創作家具展」が開催中で、座った席からは木々で創作された額の数々が目に入ってくる。個性的でありながら温かみも感じられる木々の表情、このギャラリーの空間にもなじんでいるようで、こちらに何かを語りかけてくるような雰囲気さえ創り出している。

 「山本育也」

僕は秋月さんから案内ハガキをいただいた時からこの作家さんとどこかでお会いしているのではないかと思っていた。ずいぶん前ということは確かだけどどこでお会いしたのかなあなどと考えていると、山本さんご本人が現れたのだった。

「実は僕も川上さんとどこかでお会いしてるなあと思ってんたんですよ」

どうやら二人ともその認識では一致しているようで、かなり前に雑誌の取材でお会いしていたようだ。記憶があいまいでどうもスミマセン。

 眼差しは職人や芸術家特有の鋭さを宿している。ジーンズ姿に無精ひげの風貌はジョージ・ハリスンを思わせ、また映画「イージーライダー」から飛び出してきたようなちょっとやんちゃな印象も。そして立ち上がって驚いたのだが見上げるほどの背の高さ。188センチという。

その長身と眼光の鋭さとは裏腹に、非常に優しい笑顔と語り口でギャラリーに展示されている額の数々の話を聞かせていただいたのだった。

【あるものを使い、無いものを造る】

額に使用されている木は、バーンウッドと呼ばれるアメリカ各地の納屋で使用されていた古木だ。自然の風雨にさらされてきたからこそ現れる強烈な個性がそれぞれに刻まれている。アメリカの写真家ウォーカー・エヴァンスのモノクロ写真に下見板張りの小屋がよく登場しているが、まさにあの写真集から取り出してきたような木だ。ペンキの色が残っているものもあり、まさに唯一無二の貴重な材料。

 その表情豊かなバーンウッドを使用して山本さんはとにかく自由に作品を生み出してゆく。ルールに全くとらわれない木々の絶妙な配置とデザインで、既製品には決してない斬新で個性的なモノを創り出してゆく。そして大事なアクセントでもあるアイアンやマイナスビスをさりげなく木々に溶け込ませてゆく。

【いくつかの古いコト、モノを放り…、投げ捨てると、いくらかの新しいモノが生まれてくるようです。】

 僕自身も写真展を開催するときはオリジナルではあるもののシンプルな額を使用している。山本さんの作品を眺めていると、写真自体が額も含めて主張している作品があるものいいなあと思えてくる。これこそ僕がルールにとらわれていたということだろうか。少なくとも僕が将来ここで撮影させていただいた山本さんのポートレイト写真を展示する際はバーンウッドの額に入れて展示しようと思う。会場のとてもいい刺激、インパクト、アクセントになるように思う。それは額も含めた一つの作品!

そして先ほど座っていた「みずしの森」の椅子やテーブルも山本さんの制作なのだった。

後日、秋月にある山本さんのアトリエ「liberte’」にお邪魔した。

田園風景が広がる里山風景に不思議と馴染んでいる白いコンテナ。この中に山本styleの世界が広がっている。

久住では展示されていなかった家具の数々もじっくりと見せていただいた。

これらの作品について山本さんは60%のこだわりを持っている。

100%の完成品ではなく、60%にすることで見る人に想像力を与える。この絶妙な感覚は難しいものであるけれど、やりすぎるとダメ。これはあまりにも完璧な構図の写真ばかりだと見る人は疲れてしまうという感覚と似ているようにも思う。これは独学で習得した方ならではのバランス感覚ということだろうか。斬新な素材から明らかに他とは違う60%の完成を引き出してゆくという感覚。木の名刺入れはねじを回すと小鳥の鳴き声のような音がする。こんなユーモアもそこから生まれてくるものなのかもしれない。

吉田拓郎を敬愛しているという山本さん。自由な発想の原点は拓郎の唄から教えてもらったという。コンテナの隣にある工房の傍らには九電記念体育館での拓郎のコンサートチケットとサインが飾られていた。

音楽に終わりがないように、家具の世界にも終わりはない。

これからも山本さんは斬新で新しいモノを生み出してゆく。

山本 育也  Ikuya Yamamoto 家具デザイナー

 liberte’

 838-0019  福岡県朝倉市上秋月1222-13


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