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  • 川上 信也

今この人を撮りたい!Vol.12


三反栄治 Eiji Santan イラストレーター 画家

三反さんのアトリエはマンションの8階にある。

エレベーターが昇ってゆき扉がゆっくり開くと、春らしい太陽の暖かさを伴った風が体を一気に包み込む。その風音に混じり合う鳥の声。

そこで三反さんがいつもの笑顔で出迎えてくれていた。

市内を見渡すとても眺めのいい場所だ。

咲き始めた桜や新葉が白いビル群に柔らかな彩りを与えている。

こんな風景を見下ろす場所で三反さんの作品は生み出されている。

三反さんと初めてお会いしたのは僕の写真展に来ていただいた数年前のことだったと思う。いろいろと話が弾み、その後も僕が三反さんの展示会に足を運んだりしながら何度かお会いしている。そんな出会いがこうやってアトリエにまでお邪魔して撮影させていただけるとは、お互いの作品がつなげてくれた縁というものだろうか。

年代物の椅子、机、スピーカーが整然と置かれ、制作現場は異国のような雰囲気を漂わせている。さりげなく存在を主張する瓶、果物、テーブルクロスの柄、それぞれが調和して語り合っているようだ。僕の知る限りクリエイティブな仕事をされている方々の家には必ずといっていいほど大きな本棚が存在しているが、こちらにも壁一面の本。その片隅では猫のアウラくんがお昼寝中。

きちんと並べられた道具入れからは三反さんの性格が垣間見える。色鉛筆、絵の具類が収まっている木箱は葉巻箱、標本箱とのこと。道具、紙へのこだわりも強く、紙は発色がよくにじみの少ないヨーロッパ製のものを使用している。

三反さんは座禅をするような感覚で一瞬一瞬を積み重ねるように、あらゆる雰囲気をつかみとるように描いてゆく。繊細な筆先から透明感、重量感、美しいグラデーションを生み出してゆく。そして次第に見えてくる自然の法則。例えばみかんの皮の表面にあるツブツブの並びはある規則的な線として繋がっている。鳥の卵の模様は地球に点在する島々の姿に共通する。そんな法則を次々と発見してゆく。そして人々の意識に逆らわないプロポーションを心がけ、パンフォーカスではなく人々が最初に意識するであろう部分をちょっと差が出るように描いてゆく。そうすることで説明画ではなくアートになってゆく。それらはまさに花のポートレート!

作業スペースのすぐ隣には亡くなった奥さんの写真が飾られている。

三反さんにこの世界に入るよう背中を押してくれたのが奥さんだったという。多くの作家を世の中に送り込んできた編集者だったそうだ。

「今の僕があるのは妻のおかげなんです!」

 奥さんの助言で東京での会社員生活にピリオドを打ち、好きだった植物たちを描き続け、展覧会を開きながら多くの人々と出会ってゆく。次第にそこから仕事にもつながりはじめ、植物の絵といえば三反、と呼ばれるよう独学で描き続ける日々。「経験」が1000とすれば「教え」は1程度のものかも、と経験の大切さを語る。

そしてそこから生まれる不思議な偶然性。写真の世界でも偶然にとてもいいものが出来上がってしまう場面があるけれど、その偶然を呼び込むために数々の「経験」が必要となってくる。天から何かが降りてきたと思えるような瞬間もきっとその「経験」が大いに関係しているに違いない。

2011年に生まれ故郷の福岡に戻り、こちらでも展示会などを通じて多くの人と出会いながら新たなる世界を築き上げていった三反さん。福岡の老舗「とうじ」では三反さんコーナーが設けられている。植物だけでなく鳥の絵もあり、僕はずいぶん前にフクロウの絵のポストカードをここで購入しスケジュール帳に大事に挟んでいる。日常の中で自然と対話している気分にさせてくれる。

近くの公園では桜がほぼ満開になっていた。三反さんはスケッチブックを取り出し、多くの色が現れた春の雑草に囲まれた片隅で描き始めた。

「上には上がいるからきりがない。でもそういう世界っていいなあと思うんですよ」

自然の最初の目覚めの中で、とても心に響く一言だった。

三反栄治 Eiji Santan イラストレーター 画家

1956年 福岡市生まれ

立命館大学経済学部卒業

セツ・モードセミナー美術科卒業

フリーランスイラストレーター、画家

1980~2010年まで東京在住

2011年より福岡市在住

日本ワイルドライフアート協会会員

日本植物画倶楽部会員

ふくおか植物画会員     ホームページ


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