バンコク 1998.1
香港からの続きとなる。
1997年12月の暮れ、香港から戻ってきた僕はあまりにも寒いくじゅう法華院温泉で次はどこを巡ろうかと悩んでいた(幸せな悩みだ)。「深夜特急」に沿って行けば次はバンコク、ネパールとなる。法華院温泉の冬の休みは12月から3月まで交代制2週間ごとであったため、香港からいったんくじゅうへと戻り、2週間雪の中で働いて再びどこかの国へと行くことになる。香港で日焼けしていた僕は法華院にやってきたお客さんから「よく雪焼けしてますねえー、寒い中でよく働いてるんですねえ お疲れさま」などと何度も言われていた。香港で遊んでいて法華院はトランジットのようなもの、とはもちろん言えなかったけれど。
2週間の休みで果たしてバンコク、ネパールは大丈夫なのかと行程を組み立てていた。そして天神にあったなじみの旅行代理店の方に電話してバンコクもしくはネパールはどうやって行けばいいか聞いてみると、タイ航空を利用するとバンコク経由でカトマンズまで行けるとのこと。バンコクに滞在するのは自由で、同じ料金でネパールまで行けるという。なるほどこれだと両方行けてしまう。すぐに決めてしまった。バンコクでとりあえず2泊してネパールで7泊して帰ってくるチケットだった。
旅行代理店の方は気さくな女性の方で、2週間ごとにチケットを買いにやってくる僕をとても不思議そうに思っていたようで、事情を話すととても興味を持っていただいて、後日法華院にも来ていただいた。チケットをとるときは結構わがままを聞いてもらって本当にお世話になったのだ。
1998年1月、バンコク到着。正直言って最初の印象はあまり残っていない。香港の熱気がまだ頭に残っているようで、あれ以上のものがないとなかなか感動を呼び込めない。運河の町ということさえ到着まで知らなかった。
いつものように宿は決めていなかったので、とりあえず繁華街を目指してバスに乗った。
バンコクにはカオサン通りという有名な安宿街があり、困ったらそこに行けば何とかなると思っていたのだ。でもバスで話した日本人旅行者の話によると、安宿街はカオサンのほかにもいくつかあるようで、そちらはカオサンに比べればとても落ち着いた雰囲気のところだという。なので僕はそちらに行ってみようと思った。はじめてのバンコクであったけれど、カオサンは治安に問題があるとよく言われていたのだ。
詳しい場所は忘れてしまったが、サヤームスクエアという建物がある通りが安宿街になる。緑の木陰が気持ちいい。僕はその通りで最初に見つけた宿に入り、フロントで空いているかどうか聞いてみた。若い男性が静かに「オーケー」といってすぐ部屋に案内してくれたのだった。ホテル「ムアンポン」、一泊500バーツ。バストイレ付きの思ったよりも広い部屋で、窓からはサヤームスクエア前の通りが見えていた。
とりあえず宿は決まったのだが、明後日の朝にはネパールに向けて出発のため、いろいろ見るには時間が足りない。もう暗くなっていたけれどとりあえずホテルを出て歩いてみた。
「深夜特急」では立ち寄ったバンコクでルンビニースタジアムというところでムエタイを見るシーンが描かれていた。ここから遠いのかどうか分からなかったけれど、しばらく歩いた先に止まっていたトゥクトゥクの兄さんに「ルンビニースタジアム プリーズ」と声をかけてみた。兄さんはニヤニヤと笑いながら「オーケー」と言ってエンジンをふかした。大げさなほどのけたたましいエンジン音で町中を疾走する。信号待ちでお兄さんは「ここに行かないか?」とパンフレットをしきりに見せてくる。クラブのようないかがわしいところだ。僕は「ノーノー」と何度も断り続けたが次々に違うお店を紹介してくる。トゥクトゥクって面倒だなとうんざりしながらも、15分ほどでルンビニースタジアムに到着。礼をいい写真を撮らせてもらった。暗くてよく分からなかったのだが、写真で見るとなかなか笑顔のいい青年だ。この1枚のおかげであのトゥクトゥクがとてもいい思い出となっている。
ルンビニースタジアムではすでにムエタイの試合が行われていた。大勢の観客が叫びながら試合を見ている。本で書かれていたようにおそらく賭けをしているのだろう。
僕は安い席のずいぶん後ろからその様子を見ていた。試合は最初子供の選手だったが、次第に大人たちが登場して白熱した試合になってゆく。僕はあまり格闘技に興味はないのだが、この会場の熱を発散するような独特な雰囲気は身を置いているだけでも価値があるように思えたのだった。うす暗い中で大勢の人々が叫んでいる光景。しかしあまりに蚊が多く、数か所刺されたところで我慢できなくなり会場を出たのだった。
次の日は運河から船に乗ったり、お寺に行ったり街を適当に歩いたり。
町中にお寺が多いのが印象的。ここは仏教の国、微笑みの国。
この旅のメインは次のネパールなので、あまりここで疲れすぎてもいけないと思いながらも結構歩いた。市場へも行ったし、泊まってはないけれどカオサン通りにも行ってみた。
確かにアジアらしい熱気が伝わってくるけれど、香港ほどではないかなあ。フィルムは次の日からのネパールにストックしておかなければならない。モノクロを3本持って行ったのでバンコクで1本使った。
ちょっと気分を変えて宿を変えてみた。といってもすぐ近所。
ホテルホワイトロッヂ 一泊400バーツ。
小さな窓がある。何も見えない。
次回はネパール。
Comments