「Add Some Music To Your Day」
という曲がある。
直訳すれば「あなたの一日に音楽を加えよう」ということだけれど、歌詞も音楽も素晴らしくて数年前からよく聴いている。1970年発表のビーチボーイズのアルバム「サンフラワー」に収録されている。
この曲を知ったのは村上春樹のエッセイに紹介されていたのだ。まだ知らないこの曲について、というか「サンフラワー」というアルバムについて書かれていたと思うけれど、当時どん底状態のビーチボーイズがどうしてこのような美しく穏やかなるアルバムを作ることができたのか、「ペットサウンズ」はいろんなところで紹介されている名盤であるけれど、このアルバムが紹介されることはほとんどないのはどうしてだ? というようなことが書かれていたように思う。そしてすぐさまこのアルバムを購入したわけだけれど、カリフォルニアのサーフィンソングのイメージしかなかった当時の僕にとってはかなり衝撃的な一枚だった。こんな素晴らしい音楽を作っていたグループだったのかビーチボーイズって。僕はずっとビートルズのファンだったので、ポールがビーチボーイズの「ペットサウンズ」に影響されて「サージェントペパー…」を制作したという話は何度も聴いていたけれど、それでもやっぱり「ペットサウンズ」よりは「サージェントペパー…」だよなあなどと思いながらずっとビーチボーイズを無視してきたのだった。
そして初めてじっくり聴くことになったビーチボーイズのアルバム「サンフラワー」。
一曲目はいきなりアップテンポのロックから始まる。まあノリのいい曲だなあ、悪くはないなあという始まりだったのだが、2曲目の「This Whole World」から何だかのめり込むようになってゆく。歌詞も普通のラブソングではない。
世界にはいろんな人間がいて、どこかに行けば必ず愛がある。
生きているからハッピーなんだ。自由だから幸せなんだ
というような分かりやすくも結構奥の深い歌詞
コード進行も心地いいけれど不思議な新鮮さがある。
そして3曲目の「Add Some Music To Your Day」
ここで一気にビーチボーイズの素晴らしさを体感したように思う。
もし太陽に下に生きるすべての人々が
人生に何か音楽を加えてみたとしたら
世界は一つになれるのかもしれないね
加えてみよう、人生に音楽を
とそれぞれにメンバーらが美しいコーラスと共に歌ってゆく。
ビーチボーイズってこんな歌を歌うグループだったのか、という新鮮な発見。
このアルバム制作の時はブライアン・ウィルソンはすでに精神的に弱り切っていて部屋にこもりっぱなしだったらしいけれど、そんな状況から創り出された美しいメロディと歌詞。
ラストには前衛的ともいえる「Cool Cool Water」
発売当時の1970年はまったく売れなかったというこのアルバムだけれど、2000年以降に評価が高まり、今では名盤とよばれているらしい。「ペットサウンズ」も評価されるまでにずいぶん時間を要したアルバムだったらしいけれど、ビーチボーイズって名前が名前だから単に陽気で明るいグループというイメージも足かせになっているのかもしれない。
でも僕はこの「サンフラワー」からビーチボーイズの大ファンになっていった。知れば知るほどビートルズよりすごいグループかもとさえ思えてくる。上昇と下降の繰り返しもまたドラマチックだ。
2013年、僕は大阪までビーチボーイズのライブを見に行った。久々にブライアン・ウィルソンがグループに復帰したワールド・ツアー。 僕の席は端っこだったのでずっとブライアンの背中が見えていた。主要メンバーの二人は亡くなってしまったけれど、「サンフラワー」に収められているデニス・ウィルソンの名曲「Forever」が在りし日のデニスの映像と共に生演奏で聴くことができた。
僕自身、フリーの仕事をしていて上昇下降は非常に激しい生活を送っているけれど、このアルバムを聴くたびにとても勇気づけられる気がする。
今日も朝から聴いていた。
Add Some Music To Your Day