写真家ハービー・山口さんの講演会前、会場におられたハービー山口さんに、持参の本にサインをいただいた。愛読している「雲の上はいつも青空」という本。
撮らせてくれる人の幸せを祈りながらシャッターをきること、心の中のダイヤの鉱脈を掘り当てること、モノクロのようなシンプルで清潔感のある表現こそ大切ということ、などなどとても共感するお話ばかりで、改めて僕の撮影するスタイルに取り込んでいければと思っている。
店内に展示されているモノクロ写真にはカルチャークラブでブレイクする前のボーイ・ジョージや、尾崎豊、福山雅治などの有名な方々の写真もあるけれど、普通の方々の表情も非常に魅力的だ。モノクロという古典的な手法でこれほど多くの人々の心を惹きつけるということを考えると、一体写真の進化って何だろうと思えてくる。カメラはデジタルになってずいぶん進化したとは思うけれど、それと比例して感動する写真が多くなったかといえばまったく違うように思ってしまう。むしろ少なくなってきているのではと。結局写真の力というものはカメラの発展とはそれほど関係ないようにも思う。商業写真の世界などでは枚数を気にせず撮れるということで大いに発展したということはいえるかもしれないけれど、作品としての写真においては、例えばアンセル・アダムスやカルティエ・ブレッソンを超える写真があるかといえば、ないといっていいと思う。数年前にポール・マッカートニーがビーチボーイズの「ペットサウンズ」を改めて聴くと、ここ何十年かの音楽は一体何だったんだろういう気持ちになる、と言っていたけれど、音楽の世界においても録音技術や演奏技術が上がればいいってものではないということだろう。
そしてハービーさんの講演会が行われた会場には、いくつかの写真も展示されていた。美しい白木の額に入れられた小さめの写真。これがとてもいい。この頃は額のない写真が多くみられるけれど、やはり額って写真の一部だなあと思えてくる。そして写真の良さを伝えるには大きければいいってものではないことがよくわかる。小さい写真をじっくり眺めることからこそ見えてくる物語がある。そして例えばその周囲にほんの数枚の大きな写真があることでメリハリが生まれ、見る人の感情の起伏が大きくなっていくんだろうと思う。この頃の、特に風景写真の展示を見ると大きなプリントばかりをただ並べているだけの展示があまりにも多くて(ときに上下2列だったり)、はっきりってまったく心に響いてこない。
もう一度六本松蔦屋にてハービーさんの写真をじっくり見に行こうと思っている。