top of page
川上 信也

ねこのはなし 第2話


 ねこのはなし 第2話は ルスカファクトリー代表、丸山泰武さんのねこはなしです。

 文 丸山泰武     写真 川上信也

こういう仕事、つまり文章によって生業を得るようになるなんて、小学校低学年の自分に はとても想像できないことだった。何しろ当時は飛行機のパイロットか、スキーのジャン プ選手になることが夢だったわけだから。

けれどもぼくは、実を言うといまだに、当時書いた作文こそが、人生においてモンドセレ クションの最高金賞に値する“書き出し”だったと位置づけている。これを読み返すたびに 、「ああ、やっぱりこの仕事に就くしかなかったわけね」と納得する。「ねこ」という題 がつけられた文章は、こんなふうに始まっている。

ねこの名前は白。ぼくがつけました。赤ねこです。…云々カンヌン。

赤ねこというのは、われわれの田舎の方言で、一般的に言われている茶トラのことを指し ているのだが、そんなねこに白というネーミングをすること自体が、われながら憎いと思 う。赤なのに白。粋ではないか。漱石先生のアレや、フィッツジェラルドの『バビロンに 帰る』にもきっと負けないのではないだろうか(まあ、そんなわけはないですね)。

ところでぼくの実家では、ぼくが高校生までの間に、この白と、セブというシャムねこを 飼っていた。白は飼い始めて2年ほどで行方知れずとなり、セブはぼくが大学受験で東京に行っているわずか1週間程の間に急死してしまった。ちなみにセブという名前もぼくがつけた。高校時代、陸上部だったこともあり、そのころイギリスで活躍していた中距離の スーパースター、セバスチャン・コーのニックネームをそのままいただいた。

「かわいさあまって」なんてことを言うが、白にせよ、セブにせよ、ぼくは彼らにいろんないたずらをした。寝ているときにわざとつねったり、ヒゲを引っ張ってみたり、肉球をギュッっとしたり、プロレスまがいの技を仕掛けたり…。おかげで彼らはさっぱりぼくにはなついてくれなかった。猫はごはんの時を除けば、基本的に放っておいてほしい生き物 なのだ。

そんなサディステックな匂いがするせいか、いまでも野良猫たちはぼくがいくら、“猫なで 声”で呼ぼうと、“招き猫”のようにいらっしゃいをしても近づいてきてくれない。まあ、仕 方のないことだけれど。

だから、たまに、本当にごくごく稀に、彼ら彼女らがカラダを撫でさせてくれたり、後を ついてきてくれたりすると、本当に愛おしい気持ちになる。喉をなで、「グルグル」と言ってくれたりしたら、もう、そこから一歩も離れられなくなる。とはいえ、やはり基本的 にあの人たちは放っていてほしい生き物だ。そのうちフラッといなくなってしまう。突然 、恋が冷めてしまったように。

もちろん、そんなつれないところも含めて、ぼくは猫という気まぐれな生き物にいつも夢 中なのである。そういう意味ではサディスティックな感覚ばかりではなく、マゾヒズムな 面も刺激されてしまうわけだ。おやおや、これでは完全に、性癖がアブノーマルじゃないか。まあ、猫と自分の関係を分析すればするほど、それを認めないわけにはいかないけれど。

閲覧数:146回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page